カンボジア王国の人口は、約9割をクメール人(カンボジア人)が占めている。その大半が(上座部)仏教を信仰しているといわれるが、アンコール・ワットはヒンドゥー教の寺院である。
壁、柱、天井と、いたるところに彫刻が施してあり、ない箇所を探すほうがたやすいのではないだろうか。ふと、物語「耳なし芳一」が思い出されたほどである。
造りは、先に記した壕と壁に囲まれ、その内側にぐるりと第一回廊、そのまた内側に第二回廊、さらに内側に第三回廊があり、まるで攻め来る敵から王を守るための古城、あるいは要塞のようだ。だが、ここは寺院であり、王の墓である。
第一回廊は東西南北各々の壁に叙事詩や神話、建設したスールヤヴァルマン二世の軍隊絵図、天国と現世、地獄を描いたものなど、全てが彫刻と物語を鑑賞しながら歩を進められるようになっている。
残念ながら第三回廊は修復のための工事中で階段を昇ることさえできなかったが、その階段の狭くて急であることに驚いた。正面を向いては昇降できない。横を向いて昇るのが、靴の幅の精一杯である。急であるのは、神々の暮らす神聖な高い山をこれによって表しているからなんだそうだ。
ポル・ポト政権が国内を弾圧したのは1970年代。都市を無人化して国民を農村へと強制移住させ、学校教育の廃止、宗教活動をも禁止させた。禁止させただけでなく、遺跡群にある神像や僧の像などの首から上を壊していった。像全体ではなく首から上だけというところに、特異な残虐性が窺える。
沐浴の聖池跡にくると、束の間、観光客のいない空間が現われた。目を閉じ耳を澄ますと、そこかしこに砂岩を運ぶ音や彫る音、12世紀の人々が楽しげに寺院を造っている声や鼻歌までもが風に乗って聞こえてきそうであった。
Apr24
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